Each day is Valentine's Day

アマチュアトランペット吹きによる、日常やお気に入りCD、吹奏楽などについて徒然なるままに…

吹奏楽のための交響詩『ぐるりよざ』

言わずと知れた吹奏楽の名曲です。吹奏楽を始めたころから大好きな曲で、一度は演奏したい曲の一つです。(高校の演奏会にOB出演した際吹いたのですが、カットなどあったのでノーカウントに…)

この曲で地域信仰・土着信仰などに興味を持ち、大学の卒論のテーマにもしました。

そんな吹奏楽のための交響詩『ぐるりよざ』について、曲の背景も含め紹介できればと思います。

 

この曲は海上自衛隊佐世保音楽隊からの委嘱で伊藤康英さんによって作られ、初演は1990年2月16日に海上自衛隊佐世保音楽隊が行いました。

題名の「ぐるりよざ」は、長崎県生月島に伝わるキリスト教の聖歌"Gloriosa"が訛ったものと思われ、鎖国時代の長崎のカクレキリシタンの文化に着想を得て、彼らによって歌い継がれた音楽がモチーフになっています。構成は3楽章構成。

 

今回あえて『隠れキリシタン』と『カクレキリシタン』で表記を分けています。『隠れキリシタン』は皆さんがイメージするような、日本史で出てくる江戸時代の禁教中に仏教とや神道信仰に偽装してキリスト教を信仰する人々の事で、『カクレキリシタン』はキリスト教が日本で仏教、神道と混ざり、もはやキリスト教とは言えない様な変容を遂げた宗教の事として表記しています。カクレキリシタン信仰はキリスト教と、神道、仏教のハイブリッドといったほうが近いかもしれません。遠藤周作の『沈黙』も隠れキリシタンについての小説で、その中に「この国は沼だ。どんな根も根付くことはない。お前たちの伝えたデウスは既に奇妙なものに形を変えた。」というものがあります。この奇妙に姿を変えた信仰こそがカクレキリシタン信仰なのです。また、明治時代に入り、禁教が解かれますがカクレキリシタン信仰がキリシタン信仰になることは無く、隠れて口伝えで行うことが教義になっていました。

また、一番気になるところがなぜ禁教中に危険を冒してまでキリスト教を信仰したのかという事かと思いますが、隠れキリシタンとして進行し始めた初期の人は飢饉や重い税に苦しむ中で、救いや、死への恐怖を和らげるために信仰していきました。しかし、その隠れキリシタンの子供や孫の下の世代になると、家の信仰や親のカクレキリシタン式の位牌を守るために信仰するといったように信仰内容ではなく、家の宗教がこうだからといった意味合いが強かったそうです。その為、子や孫の世代は『崩れ』という集団で棄教し仏教などに転ぶ現象が起きました。長くなりましたが、そんなカクレキリシタン信仰をモチーフとしています。

 

第1楽章「祈り(Oratio)」

Oratio(オラツィオ)はラテン語で祈りという意味です。カクレキリシタン信仰の中には、大多くの祈りが存在し、それらはまとめて『おらしょ』と呼ばれており、これもオラツィオがなまったものと考えられます。

第1楽章はグレゴリオ聖歌の主題をもとにした変奏曲。変奏は13回行われ、この「13」回については、キリストの受難(キリストが磔にされたのが13日の金曜日)の象徴とされる数字に着想を得たと思われます。また、冒頭に男声合唱がありますがこれはオプションで、吹奏楽コンクールで演奏する際には、男声合唱を加えなくても大丈夫です。演奏会などで加える場合はあくまで「男声」合唱であり、「混声」や「女声」はふさわしくないと作曲者は述べています。

この冒頭合唱の歌詞(グレゴリオ聖歌)とカクレキリシタンのおらしょ(ぐるりよざ)の歌詞を比較するとこのようになります。

 

グレゴリオ聖歌オラショ

O           gloriosa  Domina excelsa   supra      sidera

(オー      グロリオーザ       ドミナ     エクセルサ       スーペラ              シーデラ

集落名    ぐるりよーざ       どーみの いきせんさ       すんでら              しーでら

qui te     creavit    provide  lactasti   sacro      ubere

クィテ    クレアヴィト       プローヴィデ       ラクタスティ       サクロ     ウーベレ)

きてや    きゃんべ              ぐるーりで           らだすて              さあくら おーべり

 

第2楽章「唄(Cantus)」

キリシタンに歌い継がれてきた「さんじゅあん様のうた」を元にしています。この楽章では和楽器龍笛が使われる。龍笛はピッコロで代用することも可能ですが、やはりここはオリジナルの竜笛での演奏が個人的には大好きです。この楽章を演奏する団体が少ないのが残念。

 

第3楽章「祭り(Dies Festus)」

対馬蒙古太鼓のリズムと「長崎ぶらぶら節」の旋律を元にしています。楽章後半ではフーガが形成されます。1・2楽章までの主題や動機も再現され、壮大なクライマックスで終わります。

  • 音源紹介

最後に、東京佼成ウインドオーケストラ海上自衛隊佐世保音楽隊の音源をご紹介します。


吹奏楽のための交響詩「ぐるりよざ」: 伊藤康英 (Gloriosa Symphonic Poem for Band : Yasuhide Ito)


【音楽】吹奏楽のための交響詩≪ぐるりよざ≫ ~佐世保音楽隊~

佐世保音楽隊の演奏は少し録音に難ありですが、さすがの長崎の演奏です。地場の曲は地場の団体に限るなと感じます。少し前ですが、長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産として世界遺産に登録もされました。熱いね!長崎!熱いね!カクレキリシタン!(笑)

 

曲のことより信仰についてのほうが長くなっちゃったんですが疲れたのでここまでに。

 

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